第一章 ふいに鳴った通知音
スマホの画面が、蒸し暑い寝室の中で静かに光った。
時刻は夜の11時過ぎ。隣に夫・大地の気配はない。数日前から、長期出張で家を空けている。
枕元に転がるスマホを手に取り、通知を確認する。
――「まだ、起きてる?」
差出人は、蓮。元同僚で、かつて、名前すら口にできなかった人。
「どうして、いま……」
独り言のように呟いたけれど、指は勝手に画面をタップしていた。
未読をつけた瞬間、既読に変わる。その直後、すぐに新しいメッセージが届いた。
「会って、少しだけ、話さない?」
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。心がではない、身体が疼くような感覚。
指先が震えていた。けれど、その震えは拒絶ではなく、むしろ――
数分後、遥香はタクシーの後部座っていた。
涼しげな部屋着のまま、上に薄手のカーディガンを羽織り、ノーメイクの顔をマスクで隠して。
サンダル履きの足元が、夜の湿気をやわらかく吸い込んでいた。


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