第一章 秋の坂道での偶然の出会い
三か月ぶりの旅行だった。
仕事の忙しさに追われ、しばらくは旅に出る気持ちすら起きなかったのに、今年の紅葉だけはどうしても見たくなった。
朝からそわそわして、カメラのストラップを肩にかける手に自然と力が入っていた。
秋の山あいは、赤や黄に染まった木々が風に揺れ、乾いた葉の匂いが漂っている。
それでも日差しにはまだ夏の名残りがあって、歩けば額にうっすら汗がにじんだ。
ロングコートの中はぴったりとした薄手のニット。
膝が出るくらいのスカートにタイツを合わせていたから、足元から伝わるひんやりとした空気と、背中にじわりと広がる熱さが交じり合い、なぜか胸が高鳴っていた。
坂道の途中、夢中でレンズをのぞき込み、鮮やかな紅葉を捉えたその瞬間――。
「わっ……すみません!」
不意に肩がぶつかり、私はよろけて、落ち葉の積もった土の坂道に手をついてしまった。
ふわりと舞い上がった落ち葉の中で、タイツが擦れて膝のあたりが破れ、薄く赤くなった肌が露わになる。
「大丈夫ですか!」
慌てて腕を支えられ、顔を上げると、同じようにカメラを持った男性が私を見下ろしていた。
「いえ、私こそ前を見てなくて……」
互いに苦笑したあと、彼の視線が私の足元に落ちる。
「……膝、少し赤くなってますよ。タイツも破れてるし」
「あ、本当だ……でも大丈夫です。ちょっと擦りむいただけですから」
そう言うと、彼も安心したように頷いた。
ふと私は、彼の手元のカメラに目を留めてしまう。
「紅葉、撮ってたんですか。私もなんです」
「ええ、つい夢中になって、すみません」
「いえ、私も夢中でしたし。気にしないでください」
そう言って笑みを向けると、彼も照れたように笑い返してきた。
「よかったら……撮ったの、見せてもらえませんか?」
彼が液晶をこちらに向けてくれる。光に透ける紅葉が鮮やかに切り取られていて、思わず息をのんだ。
「素敵ですね。私は、こんな感じです」
自分のカメラを見せると、彼は穏やかに微笑んだ。
「わあ、逆光でこんなふうに映るんですね。僕のは……もっと近寄って撮っちゃいました」
私がカメラを差し出すと、彼は画面をのぞき込み、口元をほころばせる。
「柔らかい感じがしますね。同じ紅葉でも、ずいぶん印象が違う」
「そうですね……おもしろいです」
互いに短い感想を交わすうちに、空気がほんの少し和らいでいった。
そのあと軽く会釈をして、私たちはそれぞれの道へ歩き出した。
やがて坂道は人影が途絶え、風の音と落ち葉を踏む音だけが耳に残る。
ふと破れたタイツを思い出し、私は膝に視線を落とした。赤くはなっているけれど、血は出ていない。
安心したのも束の間、このまま歩き回るには……やっぱり少し恥ずかしい。
私は道の端の木陰に立ち、ロングコートの裾に隠れるようにして、スカートの中へそっと指を差し入れた。
タイツを膝まで下ろすと、ナイロンが擦れるかすかな音と、ひやりとした空気が肌に触れる。
片方の靴を脱いで脚を抜き、もう一方も同じように下ろした。
するりと抜けたタイツを手の中で丸めながら、(ちょっと暑かったから、ちょうどいいかも)と小さく息をつく。
バッグにしまい、靴を履き直すと、ロングコートの下ではもうショーツ一枚で脚がむき出しになっていた。
風が生足を撫でるたび、布の奥までひやりとした感覚が差し込んでくる。
それはさっきまでよりもずっと生々しく、誰にも言えない秘密を抱え込んだような心地だった。



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